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決済大手のVisaが2025年12月16日、米国市場においてステーブルコインによる決済サービスを正式に開始しました。Solanaブロックチェーン上のUSDC(USD Coin)を活用したこの革新的な仕組みは、従来の銀行決済システムに大きな変革をもたらす可能性があります。
この記事で分かること
- Visaの米国ステーブルコイン決済サービスの具体的な仕組みと特徴
- Solanaブロックチェーンが選ばれた3つの技術的理由
- 従来の決済システムと比較した際の5つの優位性
- 日本市場への影響予測と国内企業が準備すべき対応策
- Cross River BankとLead Bankが実現する新しい金融インフラ
背景説明:なぜ今この話題が重要か
デジタル決済市場は転換点を迎えています。2024年の米国におけるステーブルコイン市場規模は約1,500億ドルに達し、2025年には2,000億ドルを超えると予測されています。このタイミングでVisaが米国市場へ本格参入することは、暗号資産が「実験段階」から「実用段階」へ移行したことを意味します。特に注目すべきは、Visaの月間ステーブルコイン決済額が年間換算で35億ドルを突破している点です。これは従来の国際送金市場の約0.5%に相当する規模となっています。
1. ステーブルコインとUSDCの基本知識
ステーブルコインの定義と役割
ステーブルコインとは、法定通貨(主に米ドル)と1対1で価値が連動するように設計された暗号資産です。中学生でも理解できるように例えると、「デジタル上の電子マネーが、常に1ドル=100円のように価値が変動しない仕組み」と考えてください。
ビットコインやイーサリアムといった一般的な暗号資産が価格変動する「投機対象」であるのに対し、ステーブルコインは「決済手段」として機能するよう設計されています。
USDCが持つ3つの背景知識
第一の背景:Circle社による厳格な管理体制 USDCは米国のCircle社が発行するステーブルコインで、2018年9月にローンチされました。発行されるすべてのUSDCに対し、同額の米ドルが実際に銀行口座に預けられており、月次で監査法人による証明書が公開されています。2025年12月時点での発行総額は約450億ドルに達しています。
第二の背景:規制準拠の透明性 Circle社は米国の送金業者ライセンスを取得しており、ニューヨーク州金融サービス局(NYDFS)の監督下にあります。これはステーブルコイン市場において最も厳格な規制基準の一つとされています。
第三の背景:マルチチェーン対応戦略 USDCは現在、Ethereum、Solana、Avalanche、Stellarなど15以上のブロックチェーンで発行されています。これにより用途や手数料、処理速度に応じた最適なチェーンを選択できる柔軟性を持っています。
2. Visa米国ステーブルコイン決済の詳細分析
2-1. サービスの主要ポイント3つ
ポイント1:提携金融機関による段階的展開 Visaは2025年12月16日、Cross River Bank(クロスリバーバンク)とLead Bank(リードバンク)の2つの米国金融機関と提携し、USDC決済サービスを開始しました。Cross River Bankはニュージャージー州を拠点とする革新的な金融機関で、フィンテック企業へのバンキングサービスで知られています。一方のLead Bankはカンザスシティを拠点とし、デジタル決済インフラに特化した戦略を展開しています。2026年には提携先を拡大し、より広範な金融機関への展開を予定しています。
ポイント2:24時間365日決済の実現 従来の銀行間決済システムは平日のみの稼働で、土日祝日は処理が停止していました。Visaのステーブルコイン決済では、Solanaブロックチェーンの特性を活かし、年中無休で決済処理が可能になります。これにより、週末に発生した取引でも即座に資金移動が完了し、企業のキャッシュフロー管理が大幅に改善されます。
ポイント3:決済スピードの劇的な向上 従来のACH(自動決済機関)を通じた銀行送金では、資金の着金まで2〜5営業日を要していました。Solanaブロックチェーンを活用することで、決済処理時間は平均0.4秒にまで短縮されます。これは従来システムと比較して約86,400倍(1日=86,400秒)の高速化を意味します。
2-2. データ・数値の整理
| 項目 | 数値 | 意味 |
|---|---|---|
| 年間決済額(2025年11月時点) | 35億ドル | 月間決済額を12倍した年換算値 |
| USDC総発行額 | 450億ドル | 2025年12月時点での市場規模 |
| 決済処理時間 | 0.4秒 | Solanaブロックチェーンの平均処理時間 |
| 稼働日数 | 365日 | 従来の260営業日から大幅拡大 |
| 初期提携銀行数 | 2行 | Cross River BankとLead Bank |
| 対応ブロックチェーン数 | 15以上 | USDC全体でサポートするチェーン数 |
3. 技術的・ビジネス的な深堀り解説
3-1. Solanaブロックチェーンの技術メカニズム
高速処理を実現するProof of History Solanaが他のブロックチェーンと一線を画すのは、独自の「Proof of History(PoH)」という仕組みです。これは取引の順序を時系列で証明することで、ネットワーク全体の合意形成を高速化する技術となっています。
具体的には、取引が発生した時刻を暗号学的にタイムスタンプとして記録し、ネットワーク参加者がその順序について議論する必要性を排除します。この仕組みにより、Solanaは理論上、毎秒65,000件のトランザクション処理能力を持つとされています。
低コスト構造の実現 Solanaネットワークでの取引手数料は平均0.00025ドル(約0.04円)です。これはEthereumネットワークの手数料(1〜50ドル)と比較して約10,000分の1のコストとなっています。この低コスト構造が、決済インフラとしての実用性を支えています。
3-2. Visaのビジネスモデル転換
従来モデルからの進化 Visaの収益モデルは従来、加盟店手数料(通常1.5〜3%)と発行銀行への手数料配分で構成されていました。ステーブルコイン決済の導入により、Visaは「決済ネットワークの提供者」から「ブロックチェーンインフラの統合者」へと役割を拡張しています。
この変化は収益構造にも影響を与えます。ブロックチェーン決済では従来の手数料体系とは異なる収益モデルが可能となり、取引量に応じた柔軟な価格設定が実現できるようになります。
3-3. 規制環境との整合性
米国における法規制の現状 2024年7月、米国証券取引委員会(SEC)はステーブルコインを証券として分類しない方針を明確化しました。これにより、USDCのような資産担保型ステーブルコインは、証券法ではなく送金業法の規制対象となることが確定しています。
Visaが提携したCross River BankとLead Bankは、いずれも連邦預金保険公社(FDIC)の保険対象金融機関であり、マネーロンダリング防止法(Bank Secrecy Act)の完全な遵守体制を整えています。この規制準拠体制が、Visaの米国市場参入を可能にした重要な要因です。
4. 他事例・競合サービスとの徹底比較
従来の決済システムや競合するステーブルコイン決済サービスと、Visaの新サービスを多角的に比較します。
| 比較項目 | Visa×USDC×Solana | 従来のACH決済 | PayPal PYUSD | Stripe Crypto |
|---|---|---|---|---|
| 決済処理時間 | 0.4秒 | 2-5営業日 | 1-3秒 | 数分〜数時間 |
| 稼働時間 | 24時間365日 | 平日営業時間のみ | 24時間365日 | 24時間365日 |
| 手数料水準 | 0.00025ドル+加盟店手数料 | 無料〜3ドル | 0.50ドル〜 | 0.5%〜2.9% |
| 対応金融機関数 | 2行(拡大予定) | 全米約10,000行 | PayPal内のみ | 限定的 |
| 規制準拠レベル | FDIC監督下銀行 | 連邦準備制度監督 | 自社ライセンス | 州レベル |
| ブロックチェーン技術 | Solana | 非対応 | Ethereum | 複数対応 |
| 国際送金対応 | 将来対応予定 | SWIFT経由で対応 | 限定的 | 対応 |
表からわかる3つの競争優位性
- 処理速度とコストの両立:Visaのサービスは圧倒的な処理速度を0.00025ドルという低コストで実現しています。これは従来システムの約10,000倍の速度を、従来の手数料以下で提供することを意味します。
- 規制準拠の安心感:FDIC監督下の銀行との提携により、PayPalやStripeといった民間企業主導のサービスよりも高い信頼性を確保しています。
- 既存インフラとの統合性:Visaの既存ネットワークとの互換性により、加盟店側での新規システム導入コストが最小限に抑えられます。
5. 日本市場への影響と実務的対応策
5-1. 日本企業への3つの影響シナリオ
シナリオ1:越境EC事業者への決済革命(発生確率:高) 米国に顧客を持つ日本の越境EC事業者にとって、Visaのステーブルコイン決済は即座に恩恵をもたらします。従来のクレジットカード決済では2〜3%の手数料と為替変動リスクを負担していましたが、USDC決済では手数料を1%未満に抑え、ドル建て資産として保有することで為替リスクもヘッジできます。
楽天やメルカリといった大手プラットフォームが2026年中にこのシステムを導入する可能性は70%以上と予測されます。
シナリオ2:送金サービス事業者の収益モデル崩壊(発生確率:中) 従来の国際送金サービス(Western Union、Wise等)は、送金手数料と為替マージンで収益を上げていました。Visaのステーブルコイン決済が普及すると、これらサービスの優位性が大幅に低下します。
日本国内の送金サービス事業者は、2026年までに新たな付加価値サービス(法務サポート、税務相談等)へのピボットを迫られる可能性が高いでしょう。
シナリオ3:銀行の国際決済部門の再編(発生確率:低〜中) 三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行といったメガバンクの国際決済部門は、従来のSWIFTシステムとの併用戦略を余儀なくされます。ただし、日本の銀行法や資金決済法の改正には2〜3年を要するため、実際の影響が表面化するのは2027年以降になると考えられます。
5-2. 日本のユーザーが知るべき5つの実用的アドバイス
- 米国取引先との契約書を再確認する 米国企業との取引契約において「支払方法」条項を確認してください。2026年以降、USDC決済を指定する条項が増加する可能性があります。契約更新時には決済手段の選択肢について明確に協議しましょう。
- 暗号資産取引所の口座を今から準備する USDC決済に対応するには、暗号資産取引所の口座が必要になる場合があります。Coincheck、bitFlyer、GMOコインなどの国内大手取引所は、既にUSDCの取扱いを開始しています。本人確認手続きには1〜2週間かかるため、早めの準備が推奨されます。
- 税務上の取扱いを税理士に相談する 日本の税法上、ステーブルコインの取得・保有・換金はそれぞれ課税対象となる可能性があります。特に事業所得として計上する場合、消費税の課税関係が複雑になります。取引開始前に必ず税理士に相談してください。
- 為替リスクとステーブルコインリスクを理解する USDCは米ドルと連動しますが、円建て資産として見た場合は為替変動の影響を受けます。また、Circle社の破綻リスク(極めて低いが理論上は存在)も理解しておくべきです。
- 少額取引から段階的に始める 初めてステーブルコイン決済を利用する場合、まずは100ドル程度の少額取引でシステムの動作を確認してください。送金アドレスの入力ミスは取り返しがつかないため、慎重な操作が必要です。
6. 専門家視点による多角的考察
技術的観点からの評価
ブロックチェーン技術の専門家として評価すると、Visaが複数のブロックチェーン(Ethereum、Solana、Avalanche、Stellar)に対応する戦略は極めて合理的です。単一チェーンへの依存は、そのネットワークの障害が直ちに決済停止につながるリスクを内包します。
特にSolanaは過去に複数回のネットワーク停止(2022年に約10回)を経験しており、冗長性の確保は必須でした。現在、Solanaの安定性は大幅に改善されており、2024年以降の稼働率は99.9%以上を維持しています。
ビジネス的観点からの評価
決済業界の視点では、Visaの戦略は「既存インフラの維持」と「新技術への適応」を巧みに両立させています。加盟店側のシステム変更を最小限に抑えながら、バックエンドでブロックチェーン決済を統合する手法は、導入障壁を大幅に下げる効果があります。
市場規模の観点から見ると、Visaの年間決済額は約14兆ドル(2024年実績)です。仮にその1%がステーブルコイン決済に移行すれば、1,400億ドルの市場が形成されます。現在の35億ドルという数字は、その約2.5%にすぎず、今後10年で50倍以上の成長余地があると考えられます。
倫理的・社会的観点からの評価
金融包摂(Financial Inclusion)の視点では、ステーブルコイン決済は銀行口座を持たない人々(米国で約5%、約600万世帯)にも金融サービスへのアクセスを提供する可能性があります。スマートフォンとインターネット接続さえあれば、従来の銀行システムを介さずに決済が可能になるためです。
一方で、規制の目が届きにくいことから、マネーロンダリングやテロ資金供与のリスクも指摘されています。Visaが規制準拠を徹底している点は評価できますが、システムの普及に伴い、不正利用を検知・防止する技術的対策の継続的な強化が求められます。
7. よくある質問(FAQ)
Q1: 個人でもVisaのUSDC決済を利用できますか?
A: 現時点では、Visaのステーブルコイン決済は銀行やフィンテック企業などの法人向けサービスです。個人が直接利用するには、これらの金融機関が提供する決済サービスを通じて間接的に利用する形になります。2026年以降、対応する金融サービスが増えると予想されています。
Q2: 従来のVisaカードとの違いは何ですか?
A: 従来のVisaカードは銀行口座に紐付いた法定通貨(ドルや円)で決済されます。一方、USDC決済はステーブルコインという暗号資産を使用します。主な違いは、決済速度(0.4秒 vs 2-5日)、稼働時間(24時間365日 vs 営業日のみ)、手数料構造です。ただし、利用者の体験としては大きな違いを感じない設計になっています。
Q3: セキュリティ面での懸念はありませんか?
A: ブロックチェーン技術自体は高いセキュリティを持ちますが、秘密鍵(パスワードに相当)の管理が重要です。Visaのシステムでは、提携銀行が秘密鍵を管理するため、利用者が直接管理する必要はありません。ただし、Circle社の財務状況やSolanaネットワークの安定性といった外部要因には注意が必要です。監査報告書を定期的に確認することをお勧めします。
Q4: 日本でいつ頃利用できるようになりますか?
A: Visaは現在、米国市場に注力していますが、グローバル展開も視野に入れています。日本での展開時期は公式には発表されていませんが、規制環境の整備状況次第で2026〜2027年頃になる可能性があります。日本銀行のデジタル円(CBDC)実証実験の進捗状況も影響要因となるでしょう。
Q5: 既存の銀行システムはどうなりますか?
A: 既存の銀行システムが完全に置き換えられることはありません。Visaのステーブルコイン決済は、既存システムの「補完」として機能します。特に国際送金や24時間決済が必要な場面で活用され、従来の国内送金やローンサービスなどは引き続き銀行が担います。両システムの共存期間は少なくとも10年以上続くと予測されます。
8. 今後の展望:短期・中期・長期予測
短期予測(6ヶ月以内:2026年前半)
提携金融機関の拡大 Cross River BankとLead Bankに続き、2026年3月までにさらに5〜10の米国中堅銀行が提携に加わると予想されます。特にフィンテック企業へのバンキングサービスを提供するSilvergate BankやSignature Bankの後継金融機関が候補となるでしょう。
決済額の倍増 2025年11月時点で年換算35億ドルの決済額は、2026年6月までに70億ドルに達する可能性があります。これは月平均成長率10%のペースに相当します。
中期予測(1〜2年:2026〜2027年)
グローバル展開の加速 欧州連合(EU)では「暗号資産市場規制(MiCA)」が2024年に施行されており、規制の明確化が進んでいます。Visaは2026年中に英国とシンガポール、2027年前半に日本と韓国でのサービス開始を目指すと考えられます。
競合サービスの台頭 MastercardやAmerican Expressも同様のステーブルコイン決済サービスを発表する可能性が高く、2027年までに決済業界全体でステーブルコイン対応が標準化されるでしょう。これにより手数料競争が激化し、利用者にとって有利な価格設定が実現します。
規制枠組みの確立 米国議会では「ステーブルコイン規制法案」が2026年中に可決される見込みです。これにより発行体の資本要件、準備資産の管理方法、監査基準が法制化され、市場の信頼性が向上します。
長期予測(3年以上:2028年以降)
中央銀行デジタル通貨(CBDC)との共存 各国の中央銀行が発行するデジタル通貨と、民間発行のステーブルコインが共存する「二層構造」が定着します。CBDCは国内決済に、ステーブルコインは国際決済に使い分けられる形になるでしょう。
金融インフラの根本的変革 SWIFTに代表される従来の国際決済ネットワークは、ブロックチェーンベースのシステムへ徐々に移行します。2030年までに国際送金の30〜40%がステーブルコイン経由になると予測されます。
新たな金融サービスの誕生 ステーブルコイン決済の普及により、「マイクロペイメント」(数円単位の決済)が実用化されます。これによりコンテンツ課金、サブスクリプションサービス、IoTデバイス間の自動決済など、新しいビジネスモデルが次々と生まれるでしょう。
押さえるべき重要ポイント
- Visaの米国ステーブルコイン決済開始は、暗号資産の「実験」から「実用」への転換点 2025年12月16日のサービス開始により、年間35億ドル規模の決済市場が本格始動しました。
- Solanaブロックチェーンの技術的優位性が決済インフラとして実証された 0.4秒の処理速度と0.00025ドルの低コストが、従来システムの10,000倍の効率を実現しています。
- 日本市場への影響は2026〜2027年に本格化 越境EC事業者や国際送金サービスを利用する企業・個人は、今から準備を始めるべきタイミングです。

